金沢といえば、その礎を築いたのは加賀前田家。100万石の城下町として知られるこの街は、京都や奈良と同様、太平洋戦争での空襲から免れたこともあり、古都として非常に風情がある。東や西の茶屋街や主計町など、歩くだけでタイムスリップしたような気分にさせられる街並みが大きな魅力だ。この『梅梅 金沢』がある尾張町も幹線道路に面しているものの、いくつもの町家が並ぶエリア。尾張国荒子城主の四男として生まれた前田利家が、加賀を治めるにあたり、地元尾張荒子から足軽や御用商人を呼び寄せたためにこの名がついたものと言われている。
現在では金沢駅からも近く、また金沢城や兼六園にもほど近いこの地の町家の中でも、特に立派な構えを見せている一軒がこの『梅梅 金沢』だ。築100年を超える金物屋と隣り合わせた花屋の二軒を一つの店として再生させたこちら。外観からは何か老舗の書道具屋のようにも見えるが実は中国料理の店。しかも、いわゆる「町中華」などではなく、本格的な北京ダックなどがいただけるというから、ギャップも楽しい。
前田家の家紋である加賀梅鉢を思わせる「梅」の名がつく店名の由来は、梅花笑傚 寒雪独自升(メイファシァォファンハンシュェドゥズーシオン)という言葉から。"厳しく寒い雪好きの中、微笑むかのように美しく力強く咲く梅の花"という意味だそうで、まさに雪降る冬の金沢を想起させるもの。寒い冬を越して、花を咲かせるような存在になりたいということだろうか。
和を感じさせる店構えに対して、店内に入ると目に飛び込んでくるのが、焼き上げられるのを待つ家鴨。前述したように、こちらは北京ダックが名物の中国料理店。それも、非常に本格的なもの。中国の伝統製法に基づき自家製石窯にて薪を焼き、家鴨のほか牛肉・豚肉などを焼き上げている。この明暗爐という日本ではおそらく数軒しかない、あまり見る機会のない自家製の扉の無い窯を使うと、水蒸気が外に逃げるため皮目がパリッと焼きあがるのだという。薪に使うのは、香り高く仕上げるために林檎の木などの果実の木。