三ノ宮駅からほど近くに2006年にオープンした『天ぷらやまなか』。ミシュランガイドでも2つ星として掲載されたことのある、神戸を代表する天ぷら専門店だ。ご主人の山中賀博さんは、第一ホテルやホテルオークラ神戸の日本料理店で合計10年あまりの修業ののち、三宮の日本料理で料理長を任されたあとに独立した。日本料理の数あるジャンルの中で、天ぷらがもっとも面白いと考え、専門店での経験は無かったものの独学で天ぷらを学び、こちらを開いた。
天ぷらのシンプルなのに奥深いところが天ぷらの魅力だと語る山中さん。洋食はもちろん、日本料理の世界においても足し算的な料理が少なくない中、天ぷらは素材の旨みを中からいかに引き出していくのかが問われる、引き算の極みと呼べる料理ジャンルのひとつ。山中さんは仕事としての楽しさを感じ、専門店として開店することを決めた。
天ぷらといえば、鮨同様、すぐに江戸前が思い浮かびがちだが、決まりごとが多すぎて、自由さが失われていたのも事実。ただ、現在46歳の山中さんを含め、30~40代の料理人は、基礎はしっかりと押さえつつ、それぞれが工夫を施した天ぷらを供するようになった。特に、「本場」から離れた関西の料理人は自由な発想が光る。山中さん自身も、基本は江戸前としながらも、油や提供方法を工夫し、さらに江戸前にはない瀬戸内の良質な素材を天ぷらとすることで、江戸前と瀬戸内の良いところ取りという天ぷらに仕上げた。