豊富な魚介類のイメージはあっても、下関に絶品のイカのイメージを持っている人はあまり多くはないのではないだろうか? イカの王様とも称される剣先イカと言えば佐賀の呼子のイメージがあまりにも強い。海に張り出した生簀から生きたままのイカを救い上げ、すぐに料理するシーンはテレビのバラエティー番組などでもよく見られる。実際、繊細なイカは水槽で泳がせてもすぐに死んでしまうほどだから、産地以外では生きたまま食べることは不可能に近い。だが、この『平家茶屋』では呼子と違わない絶品の剣先イカを味わうことができる。
実はこの下関界隈も呼子も剣先イカの海域としては同じだ。ここ『平家茶屋』では、下関の北にある特牛(こっとい)漁港と福岡・宗像の鐘埼漁港から新鮮な剣先イカが運び込まれる。その繊細なイカを活かすのが店の真下にある水槽。井戸を掘り、1年中17℃前後に保たれた海水によって、循環式のフィルターでは数日しか生きられない剣先イカを1週間以上も余裕で生き生きとした状態に保つ頃ができるのだという。そのため姿造りで供された剣先イカは非常にクリアで上品な旨み、甘みを感じさせる一級品。天ぷらや塩焼きにされるゲソも歯ざわりからして別物。このためだけに訪れてもいい店だ。
実はこの『平家茶屋』がある建物は、壇ノ浦の戦いのモニュメントがや天保製長州砲がある、みもすそ川公園の真横。その歴史的な場所に立つ部屋の中からは関門橋も見渡せる絶好のロケーション。また、もともとこの場所には住宅が建っており、その中の一つは作家・松本清張の家だったというから驚きだ。この地で関門橋を見ながら多くの名作が作られたのであろう。客室はホテルのロビーのようなエントランス近くのテーブル席以外は個室からなり、現在大宴会場となっている2階部分はテーブル席に変更し、結婚式もできるスペースとなる予定だという。