下関といえば、多くの人がまず最初に思い浮かぶであろう食材、ふぐ。この地では、「福」にかけて、音を濁らせず「ふく」と呼ばれる、言わずと知れた高級魚だ。ここ下関には南風泊市場という日本で唯一のふぐのセリを行う市場があり、ここに全国からふぐが集まる。「ふく」を好んで食べていた人物として有名なのは、この地の出身で初代内閣総理大臣であった伊藤博文だろう。豊臣秀吉が禁食として定めて以来、公には供することができなかったふぐ料理を伊藤が解禁させた明治半ば以来、下関は常にふぐ料理の中心地であり続けている。
とはいえ、ふぐは高級魚であり、「てっちり」のイメージが強いこともあり、なかなか気軽には食べられないという印象が強いというのも事実だ。そんなふぐ料理を身近なものにして評判なのがこの『旬楽館』だ。こちらの女将・高橋和子さんは地元のフェリー会社に長く勤め、クルージング船の担当をしていたという、飲食とは縁のなかった方。ただ、そのクルージングで参加者のふぐ料理に対する反響の大きさを見て、改めて下関におけるふぐという資源の偉大さを知ったという。会社を退社後、一念発起しふぐ料理を中心とした『旬楽館』を20年前に開店した。
店を構えた場所は、下関でもっとも栄えた唐戸交差点すぐ。明治期に建てられた下関英国領事館の遺構から道を挟んだすぐ隣にある。明治、大正、昭和と貿易港として栄え、路面電車も走っていたというその当時は常に賑わっていた街。今では、往時の建築物程度でしかその賑わいは感じられないが、街を歩けば歴史を感じさせる。