大人が集う、大阪キタの歓楽街・北新地。ミラーガラスを使った丸くモダンな造りの堂島薬師堂近くに、『割烹 ふじ久』はある。余分な手を加えず、素材を活かした料理の数々で、この地に通う舌の肥えた人々を50年近く魅了し続けてきた。二代目ご主人は桑原秀行さん、61歳。生まれも育ちも北新地だ。
元々、桑原さんのお母様が戦後から営んでいたバーを日本料理店へ商売替えしたのは昭和44年のこと。桑原さんは、家業を継ぐつもりはなかったが、飲食業には興味を持ち、大学在学中はリーガロイヤルホテルのスカイラウンジでアルバイトを経験。卒業後は京都ホテルのフレンチレストランに就職した。その後、実家近くのステーキハウスで経験を積んでいたとき、実家の料理長が怪我をし、呼び戻されたという。以来40年近く、日本料理に邁進してきた。「毎日、天満市場に通って素材を見極めています。新しいものや珍しいものに出逢えると嬉しいですよ」と桑原さんは笑う。
「素材そのままな料理が多いんです。創作料理は好きではないので」との言葉通り、桑原さんの料理はストレートだ。例えば、夜のコースの煮付けなら、瀬戸内産のメバルを酒と水を半々用い、ややあっさりと炊き上げる。造りなら、大分産のイシガレイを、食感の冴える薄造りに。どの品もメインとなる素材ひとつの持ち味が最も直に伝わる調理法を施している。