相生市の鮮魚店の次男坊として生まれた、店主の寺本勝己さんの、料理人としてのスタートは決して早くはない。学校卒業後は、証券会社の営業マンとしてサラリーマン生活を3年過ごす。「自分で何かをしたいと思ったとき、実家は仕出しなども行っていたので、身近に料理がありました」と。その後約1年半、夜間は調理師学校に行き、昼間は中央市場で働き、調理と魚の目利きの基礎を身につけた。そして、和歌山に本店のある魚料理『銀平』の、神戸・三宮や大阪・北新地の店で5~6年経験を重ね、実家を1年手伝った後、30歳で独立した。慣れ親しんだ魚介をメインに、姫路市郊外に店舗を開店。一躍連日満席の人気店となった。その後、5年前に駅前に移転し、現在で店は20年目となる。
地のものをもちろん扱うが、「産地に関わらず、いいもの、変わったものをさわりたいんですよ」と話す寺本さん。カウンターに置かれた日替わりの手書きメニューを開けば、「今日のお魚」として、キンキ、黒メバル、真アジなど、魚の名前がずらり。花鯛やサワラなど姫路の前どれの魚もあるが、キンメダイは相模湾からの仕入れで、大磯の鮮魚店とも直で取引をしている。魚の名前の横には、炭焼き、煮付け、蒸しポン酢など、それぞれ調理法が書かれており、寺本さんと相談しながら、好みのメニューを決め込むことができる。「お客さんが好きなように食べてくれるのが一番ですから」。
姫路では灘のけんか祭りをはじめ多くの祭りが秋に催される。祭りのシーズンに欠かせないのは、地元ではシャクと呼ぶシャコとワタリガニ。「シャコは茹でたり蒸したりして、よくおやつに食べていましたよ」と寺本さんは笑う。今日獲れた前もんのワタリガニはシンプルに酒蒸しに。三倍酢でいただくのもいいが、そのままでも濃厚な卵や身の甘さが存分に伝わってくる。看板として掲げる鯛めしは、醤油ベースで、米一粒ひと粒に鯛のだしが染み込んでいる逸品だ。