特集 / 1300年の都・奈良で出逢った新世代レストラン
自然と歴史が交差する奈良公園の一画で、地と時が生み出すストーリーを五感で味わう

奈良

2018年4月16日

自然と歴史が交差する奈良公園の一画で、地と時が生み出すストーリーを五感で味わう
飛火野。奈良公園の東側、春日山の麓から続く春日大社を含む一帯は、古い名前で呼ばれており、万葉集などの歌にも詠まれる風趣ある景色が広がる。東大寺境内にも自然が多く、蛍が舞い飛ぶ池は美しい水を湛えている。
古都ならではの歴史ある自然の趣きに、心洗われる時間を過ごすのも大人の旅ならでは。そうした東大寺の自然林を借景とする場所に、2016年装いを新たにスタートしたレストランが『akordu』だ。

“akordu”とはスペインのバスク語で「記憶」を意味する。オーナーシェフ、川島宙(ひろし)シェフの料理は、味と香り、ビジュアルと感触、それらの一つひとつが五感すべてに語り掛けながら、食べ手の記憶に作用する。それは、奈良にある『akordu』でしか体験できない食の記憶であり、すべての人の心に残る記憶でもある。

奈良から世界へ。シェフの旅は果てしない

川島シェフは、東京都の生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、ホテル西洋銀座で修業を開始した。その後、国内のホテルやレストランで腕を磨いたのち、33歳にしてスペインへ渡った。世界ベストレストランのひとつ、バスクの『ムガリッツ(Mugaritz)』で多大な影響を受けて帰国。 2008年、マダムの友紀さんの故郷でもある奈良を独立の場として選び、奈良市内、近鉄富雄駅前に『akordu』をオープンした。

その後、施設の老朽化により一度クローズを迫られるが、奈良公園の自然あふれる場所に縁を得て、2016年12月にリスタート。奈良という地に根を下ろし、地域の食材や人々と共に創造する料理は、県内はもちろん、全国からも注目を集めるようになる。 また2017年12月には、ミシュラン同様、フランスで最も影響力のあるレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』の東京・北陸・瀬戸内版2018にて、「今年のシェフ賞」も受賞した。

農林水産省による料理人顕彰制度「料理マスターズ」のブロンズ賞にも選ばれている川島シェフ
農林水産省による料理人顕彰制度「料理マスターズ」のブロンズ賞にも選ばれている川島シェフ

それでは、コースの中から、いくつか料理をご覧いただこう。季節とともに少しずつ構成を変えるコースは、昼6,000円、夜13,000円。それぞれワインペアリング(昼6,000円~、夜8,000円~)を用意している。

スペインでの修業経験から、川島シェフの料理は「モダンスパニッシュ」と称されることも多いが、もはや、スパニッシュでもなく、フレンチでもない。曰く、その独自なスタイルは「イノベーティブ」と言える。

皿の上に表現するのは光景ではなく、記憶。

まずは、川魚のアマゴを使ったひと皿。黒い球状の器にふたをした状態で運ばれ、目の前でふたを外すと燻製の香りを帯びた煙があふれ出す。

「野迫川のアマゴ 燻された雲海とその下の世界」。煙が薄れると、冒頭の写真のように見えてくる
「野迫川のアマゴ 燻された雲海とその下の世界」。煙が薄れると、冒頭の写真のように見えてくる

この料理には、アマゴが育つ奈良県南部の野迫川村(のせがわむら)で見た風景がイメージされている。スモークの煙は、早朝に見られる雲海。雲海が晴れると、野花が咲く川辺に、泳ぐアマゴが見える。 アマゴは、地元で食べられる甘露煮をヒントに、甘辛いタレで味付けし、表面だけを軽く焼いてある。リンゴ、ハーブ、アップルヴィネガーのジュレ、マスの卵など、酸味、さわやかな香りと甘み、塩気が混然一体となって、想いは春の野迫川、その川辺へと飛んでいくようだ。

続いては、余分な飾りや味付けを排除し、すがすがしいまでにシンプルな料理が登場する。大和の伝統野菜の一つ、「大和まな」をストレートに味わうひと皿だ。大和まなは小松菜に似た在来作物で、甘みとほろ苦さがある。この大和まなを、10秒間だけ蒸して器に。

「大和まなは、シャキッとした食感を残しつつ、少しだけ蒸すことで、甘みを引き出しています。素材がいいからこそ、やり過ぎないことが大事」とシェフ。

脇にはブルーチーズのムース。大和まなに感じるワサビっぽさがブルーチーズの要素に似ていることから、そのニュアンスを広げるために、ソース代わりに添えている。同じく、大和まなに感じる柑橘系の香りに合わせ、少しだけレモンの皮をすりおろしている。

「春のアブラナ ブルーチーズクリーム」。大和まなは定番の素材ながら、毎回、アプローチが変化する
「春のアブラナ ブルーチーズクリーム」。大和まなは定番の素材ながら、毎回、アプローチが変化する
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