金沢には坂が九十九あるという。正確な数字かは不明だが、犀川(さいがわ)と浅野川に挟まれた河岸段丘に広がる街ゆえ、実際にはそれ以上の坂があるかもしれない。そのひとつ、「大和(だいわ)百貨店」から片町にかけて下るのが香林坊(こうりんぼう)坂。下りきった地点、片町1丁目交差点から北西の方向に続く道は、木倉町(きぐらまち)商店街と呼ばれている。
全長約230メートル。加賀藩の時代から続く商店街で、当時は材木商や小間物屋が軒を連ねていたから“木倉”の名がついた。現在は、多様な飲食店が並ぶ。その一角で2017年4月にオープンしたのが『帆夏(ほなつ)』である。
手をかけた、日替わりの酒肴が並ぶ
主人の岡山 夏さんは和食一筋に腕を磨いた料理人。接客を担当する奥様の美帆さんを相棒に、小さいけれども居心地の良い和食店を開店させた。
地物を中心に仕入れる鮮魚、旬の野菜、馴染みの精肉店で選りすぐってもらうブランド牛。ていねいな仕事を加えた日替わりの献立で、味にうるさい金沢っ子を魅了。同業者の常連さんが多いことも、その腕の確かさを証明している。
夏は冷たく、冬は温かく。季節の食材を上に乗せた、小ぶりの茶わん蒸しがお通しとして出される。 よく冷えた生ビールを傾けながら、名物メニューである、「加賀野菜・五郎島金時と小坂レンコンのポテトサラダ」に箸をつける。キタアカリで作るベーシックなポテサラに、スライスして炒めた小坂レンコン、和だしで炊いたサイコロ状のサツマイモ「五郎島金時」をプラス。レンコンのシャキシャキ感、2種の芋の異なる食感がビールを進ませる。
身の肥えた大羽イワシで作る自家製オイルサーディンは、骨がないかのようにやわらか。ホロホロと口どける。塩と香辛料に約半日漬けてマリネしたイワシをオリーヴオイルで煮るのだが、よくある缶詰のそれを想像していたら大間違い。たっぷり添える香味野菜との相性も抜群。新鮮なイワシが手に入る海の近くだからこそ味わえる看板メニューだ。