元来「白」という字に「つくも」という読みはない。こう名付けた由来は、「百」という字から「一」を引いた「白」ということから。引いた数が九十九。ゆえに「つくも」と読んだ。そして、この店名には様々な想いが込められている。
店主の西原理人さんは、東京出身。高校卒業後『嵐山吉兆』で、現在は京都『未在』店主である石原仁司さんが料理長の時代に修業を重ねた。10年間を過ごしたのち、軽井沢の蕎麦懐石の店で2年間料理長を務めた。そして今度はニューヨークへ。京都の『麩嘉』が開いた精進料理の店『嘉日(Kajitsu)』のオープンに際して料理長として渡米した。そこで2011年にはミシュランガイドで2つ星を獲得。3年間のニューヨークの後、さらにロンドンの和食店で3年を過ごしたのち、2015年末に奥様の出身である奈良の地で独立した。
西原さんの経歴を見ると既に真っ「白」どころか、ありとあらゆる経験と知恵、技術を持つ料理人であることが伝わるだろう。ただ「白」という字には物事の始まり、純粋、神聖、誠実、美しさ、儚さ、無の境地という意味が存在する。また九十九というのは、限りなく完璧に近いが僅かに足らず、百の間には永遠が存在する。そこには、日本人が受け継いできた感性である未完の美という美意識があるということでもある。 独立してはじめて店を構えたスタート地点である奈良。西原さんの修業した京都が繁栄する前に都のあった場所であり、日本のあらゆる料理の起源がある土地。そんな奈良を料理で再現するというのが、西原さんの考え。しかも彼の料理は単なる地産地消だけにはとどまらない。