『古事記』に記される「大和は国の真秀ろば…」という歌は倭建命(日本武尊=ヤマトタケルノミコト)が今際の際に故郷である大和を懐かしみ、詠んだものだと言われる。「真」「秀」という文字からも窺えるように、「真秀ろば(まほろば)」とは、「素晴らしい場所」「理想郷」を意味するもので、重なり合った山々など、その風景の美しさを褒めたたえている。その当時を想起させる昔ながらの田園風景が残る奈良市高樋町界隈は万葉の歌人たちから「清澄の里」と呼ばれた。室町末期に澄み酒(清酒)の醸造法を確立した正暦寺にもほど近い水質に恵まれた土地でもある。
JR帯解駅から車で約10分、JR奈良駅からでも25分程度という距離にありながら、清澄の里には美しい山々と田畑が広がる。代表の三浦雅之さんは、もともと社会福祉関係の研究職として働いていた方だったが、伝統野菜を復活させたら地域コミュニティが復活するのではないかと考え、1998年に農業を始めた。
先述の通り、もともと水質に恵まれていたこの界隈は、現在も五ヶ谷川と菩提仙川という今でもたくさんの蛍が生息する川が流れている。昔からの生態系が維持されているということもあり無農薬・有機栽培にも適している土地だ。こちらで栽培されるのは大和伝統野菜や米・雑穀など年間約120種類。4人のスタッフでそのうちの9割を生産している。