創業からおよそ100年。全国にその名がとどろく鰻の名店がこの『田舎庵小倉本店』だ。近年、稚魚の乱獲や違法な取引などで絶滅を危惧されている鰻であるが、一番の問題はどこで誰が獲った稚魚をどこでどのように育てたのかというトレーサビリティにある。4代目で代表取締役社長である緒方大さんによると、良い鰻は日本全体の数%程度で、それらの情報を常にキャッチアップするため、時間があれば日本全国の生産者の元を訪れている。現在、市場に出回る鰻はその多くが、ボイラーで温められたハウスで稚魚を入れてから半年程度で育てている。脂が乗っていないためエサの魚粉と魚油で補うから、鰻の味も香りもしない。田舎庵が選ぶ鰻は、最低でも1年半以上、多くが2~3年かけて、露地池で密度の低い環境で育てられたもの。そもそもの鰻からして違うというわけだ。
そして、もう一つ重要なのが焼きだ。鰻はたっぷりと脂が乗っているから、焼けば焼くほど身が縮んでいく。けれど、皮にしっかりと火が通っていないと嫌な食感や臭みを感じる。スーパーの安い鰻や流通している加工品が美味しくないと言われるのはこれが一番の原因。出来るだけ歩留まりをよくしたいから焼きが甘いことが多いのだ。田舎庵の鰻の焼きの特徴は、焼き切るということ。いわゆる地焼きで焼き上げられる鰻は、最初は5本程度の金串を刺し、身が縮んでくると追い串をしていく。二重になっている鰻の皮だが、その二枚の皮の間に金串を打つこと14~16本。身を折りながら叩くように焼いて脂を落とし、中までしっかり火を通し、鰻の一番の美味しい部分である皮の旨みを最大限にまで高める。「火を食べさせる」のだという。そのため、通常7割程度の歩留まりが、こちらでは半分くらいにまで落ちる。それがこの田舎庵のスタイルだ。