特集 / 広島とはまた異なる文化が魅力的な歴史ある城下町・福山へ
福山の地で約100年。街を見守ってきた食堂。

福山

2018年11月19日

福山の地で約100年。街を見守ってきた食堂。
午後の休憩を終え、16時の開店が近づくと、近所の常連がこの店の名物を求めて集まる。『稲田屋』は資料が残っていないため正確な年はわからないが大正8年頃の創業ということで、現在のご主人で5代目。もともとは、うどんをメインに提供する店として創業したようだが、以来約100年にわたり、福山の街で商いを続けてきた、この街を代表する酒場遺産的な一軒だ。

JR福山駅南口から約5分。元町商店街を過ぎ、船町という短いアーケード街の端に『稲田屋』は懐かしい佇まいのまま存在する。近年よく見られるような、レトロ風な店ではなく、年季を感じさせる、本物の昭和ノスタルジーが店の内外にあふれている。古き良き食堂のような木の扉。シンプルでわかりやすいメニュー。広い客席に大きな木のテーブル。奥にも広い厨房があり、昼食時はひっきりなしに客が訪れる。

16時になると、件の常連が中に入り、買い求めたものは「関東煮」なる料理。厨房とは別に、関東煮専用のスペースがあり、そこでたっぷりのだしの中で煮込まれる関東煮を買って持ち帰る。関西で言うところの「かんとだき」、つまり「おでん」的なものではなく、この店で言う「関東煮」とは、どて煮にも似たホルモン串のこと。近年、「ヤワギモ」などとも言われるようになった牛の肺と関東ではよく串焼きなどで食べられる「シロ」という豚の小腸を使った煮込みだ。この店では昭和のはじめころから提供されている料理だというのだが、もともとは当時の店主が大阪で修業してメニュー化したものらしい。

じっくりと煮込まれた「関東煮」。見ての通り、いわゆる「かんとだき」ではない。
じっくりと煮込まれた「関東煮」。見ての通り、いわゆる「かんとだき」ではない。

牛肺は、非常に丁寧に血抜きし、さらに下茹でなどを含めると約2時間費やされる。そのため、あの牛肺独特の臭みはほとんど感じられない。シロも適度な弾力を残しつつ、非常に食べやすい。この2種類のホルモンを串に刺し、だし汁、醤油、砂糖などを使った秘伝の味付けで煮込む。酒のアテに、ごはんのお供にもなる抜群の味付けが人気で、手ぶらでも持ち帰れるように容器も販売されているほどだ。
もちろん店内でも1本160円でいただけるという、手間を考えると非常にリーズナブルなもので、酒と関東煮の組み合わせは何杯でも飲んでしまいそうになるもので、いわゆるセンベロ酒場的な使い方もできるというのがこの店の懐の深さか。

肉丼は780円。卵をのせた肉玉丼も人気で、甲乙つけがたい。
肉丼は780円。卵をのせた肉玉丼も人気で、甲乙つけがたい。
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