千手観音坐像を中央に千体並ぶ観音像が圧巻の、国宝「三十三間堂」近く。ここに2012年にオープンした、茶問屋が営むカフェがある。高品質な抹茶やほうじ茶を使ったパフェやかき氷が評判で、行列が絶えない一軒だ。三代目店主は清水ひらくさん。昭和55年生まれで、宇治の茶業研究所で一年、台湾で一年お茶の研鑽を積んだ後、実家を継ぐと決心。大阪の茶問屋が、「人生をかけて」京都に進出したのには理由があった。
家系は代々酒問屋だったが曽祖父の代で廃業し、昭和20年、「お茶が無くなることはないから」と、戦争帰りの祖父が今の会社を創業。宇治に通ってお茶を仕入れ、問屋として飲食店やホテルなどに良質の茶葉を卸していた。しかし、時代は産直ブーム。お茶=京都というイメージはぬぐえず、業績は徐々に右肩下がり。お茶の香りと共に育ち、父の背中を見てきた清水さんは、京都にアンテナショップを構えて、「もっとおいしいお茶を発信していこう」と決心した。「あくまで“清水家の基準”ですが、おいしいお茶とは、うまみ、甘み、苦みのバランスがよいこと。最近、甘くてうまいお茶がおいしいとされていますが、苦みは必要。抹茶だけでなく、煎茶、玉露も、ほどよい苦みはあったほうがよいですね」。
オープンした当時は、お茶がメイン。店に電話が鳴れば「抹茶パフェ」の問い合わせのみで、閑古鳥が鳴く日々が続いた。「“お茶を飲んでほしい”は店側のエゴかもしれない」と思い始めたとき、たまたまスイーツ好きのスタッフが加入し、スイーツを主軸にしようと研究を始めた。抹茶スイーツは数あれど、抹茶のおいしさを伝えきれているものは少ないと感じ、他にはない、すっきりとしたあと味の抹茶スイーツでお茶を発信したいと模索していた中、スペイン発のエスプーマと出逢った。