関西や東京、福岡などのビストロでは、最近目にすることの多くなった自然派ワイン。濃くて渋くて重いことが良いものだとされていたワインの世界で、穏やかで果実味を感じ、いくらでも飲めてしまえるような軽やかさがあると人気で、例えば世界一のレストランと言われたデンマークの『noma』でもオンリストされるのは自然派だけだというほど注目されている。ここ富山ではまだまだ自然派ワインを楽しめる店は多くはないが、オープンから約3年半、この『ル・グルトン』は多くの地元客に自然派ワインの愉しみを伝え、そのハートをつかんでいる、見逃せない一軒となっている。
地元富山の高校を卒業後、大阪の専門学校を経て、東京・渋谷のイタリアンで料理に携わりはじめたという吉国さんは、25歳の時に富山に戻り、高岡市内で一番人気のイタリアンでサービス人となった。その店はオーナーがワイン好きだったこともあり、吉国さんもボルドー地方やブルゴーニュ地方のグランヴァンと呼ばれる高級ワインなどを飲む機会が多くなり、ワインの勉強をしてソムリエ資格を取得。けれど、吉国さんが注目したのは、誰もが知っている有名シャトーのワインではなく、その当時のソムリエ教本にたった4分の1ページ程度しか紹介されていなかったスイス国境・ジュラ地方のワインだったのだという。「自分はひねくれているので」という吉国さんだが、そのジュラ地方に注目したことが、期せずして自然派ワインとめぐり逢うきっかけとなった。
たまたまジュラのワインに興味を持ち、飲み続けていくうちに、ボルドーにもブルゴーニュにもないものを感じ、この地方のワインを買い漁っていたのだという。当時、吉国さんが買っていたのは、このジュラ地方の名醸造家で自然派ワインの神様的な存在であるピエール・オヴェルノワのもの。知らずに買っていたとはいえ、ナチュラルなワインとは何か縁があったのだろう。
仕事の現場もイタリアンから今度は富山市内のビストロに。ここでは、本格的に料理を任されるようになった。富山では珍しい自然派ワインに詳しく、ソムリエで、イタリアンにもフレンチにも精通する、現在の吉国さんの姿がここに完成する。
その後約3年半のビストロ時代を経て、2015年春に自らの城である『ル・グルトン』を開いた。