「本来出雲の蕎麦は噛んで味わうものなんです」と店主・槻谷英人(つきたに・ひでと)さんは言う。
高冷地である奥出雲町馬木の畑に出向き、トラクターを駆り、土を耕し、夏に種をまく。秋の収穫を経た玄蕎麦を低温貯蔵し、石臼による自家製粉する。
粗挽きの粉で打つ蕎麦は、ブリブリとした食感と噛みしめるほどに広がる風味が荒々しくも深い。割子そばと呼ばれる3杯の器に分けられた蕎麦は、殻付きを挽いた粗挽きで、ざるや温かいかけだしで食べる蕎麦は皮を剥いて挽いた細打ちだ。
基本は自家栽培で、その他の蕎麦も奥出雲の契約農家に依頼しているという手のかけようだ。
蕎麦にたどり着くまでの素敵なアプローチ
蕎麦を注文すると「厚揚げ風」の小鉢と蕎麦ぜんざいが付く。厚揚げのように見えるのは蕎麦粉を練った蕎麦の揚げ餅だ。
さて、蕎麦前を楽しむことに。あっさりシンプルなアテとして雲南市の『豆腐工房しろうさぎ』のやわらか豆腐をいただく。
国産丸大豆とにがり、奥出雲の水のみで作られた昔ながらの味わいで、豆の甘さがしっかり感じられる。まずは醤油も薬味もなしでいくのが正解だ。元の豆乳は、なんと糖度が11~12度もあるとのこと。
次にだしの味わいが広がる蕎麦屋のたまご焼き。ほかにも奥出雲の舞茸の天ぷら、鴨のオイル焼きなど魅惑の品々が揃う。
酒は「王禄」でも超辛口無濾過生純米酒を。甘みも華もあるが辛口だ。口に広がるうまみがあまりに豊かで、これだけで飲み続けたくなるほど。