「日本の自然百選」にも選ばれた出雲日御碕灯台からの絶景は、空と海と岬の奇岩絶壁が織りなす大パノラマが楽しめる。素戔嗚尊(すさのおのみこと)、天照大神が祀られた日御碕神社も近く、余裕を持って参拝したいところ。 美食前に、日御碕を散策して絶景を満喫しつつ腹を空かせるコースを提案しておこう。高さ43.65mと日本一の灯台は、この季節なら日本海の潮風が心地よい。
人を饒舌にさせてしまうウニの力
さてお目当ては、その日御碕神社の参道に建つ『花房商店』だ。「みやげ物食堂」といった風情だが、食い道楽たちが遠方からウニ丼目当てにこの店を目指す。 周辺のウニ漁師から直接仕入れるというオレンジ色のバフンウニは、澄み切った日本海の環境も手伝って、驚くほどクセがなく甘くフルーツのような風味が楽しめる。
ぷっくりとした身の一つひとつは決して大きくはないけれど、よほど上質の海藻を食べているのだと分かる。 自然が残された周辺の山が海を育て、ウニの身を肥えさせている。
そして現れたのが、丼いっぱいに盛られたウニ。 期待通りの鮮やかな色と見ただけで分かる鮮度の良さ。「ウニ板1枚とちょっと盛り込んでますから」とご主人の花房芳政さんが話してくれた。 ウニの下には岩海苔が敷き詰められていて、ワサビを散らしながら食べる。醤油はかけなくとも特製のタレがご飯に染み込ませてある。
ひとつまみのウニを何も付けずに食べると、確かに甘い。マンゴーなど南国の果実にも似た香りさえ立つ。体温で溶けるようにほどけて行く時間は恍惚としか言いようがない。
しかし、それをちびちび食べていてはいけない。ゴソッと口に頬張るようにして食べるのがまたうまい。磯の香りがほんのりと広がり、岩海苔の風味と共鳴するかのようだ。
出雲の神さまたちが「泣いてもいいんだよ」と耳元でささやいているような体験でありました。
添えられた味噌汁の中にも地元で採れたカジメ(搗布=九州北部などでよく食べられる海藻の一種)が入っていた。ここまで来ると九州も近いんだな。