行きたかった『仙太鮨』は児島駅から車で5分ほど。小さな漁港の近く、防潮堤の際にある。
2階に店舗をしつらえ、絶景が楽しめるカウンターからして、すでに気分が上がるというもの。
店主・難波時芳(なんば・ときよし)さんは、半世紀を超える鮨歴を持つ。東京・銀座や大手町、西新宿などの鮨店で腕を磨き、地元に店を開いた。
味に幾重もの「層」を感じさせる鮨
特上にぎりでも気軽な設定だが、おまかせにぎりはそれを上回る値打ちがある。12カンほどの鮨ひとつひとつに積み重ねられてきた仕事が施される。豊かな海で育つ魚介は、その身にもしかとうまみを蓄えているのだ。
その味わいを邪魔することなく引き立てる仕事を施すには、ネタを熟知していなければならない。同じ瀬戸内のコハダでも時期や個体差によって身のうまみや脂のノリが変わるが、難波さんはそれを「手触りと勘で分かる」という。
仕込みの塩と酢の塩梅を判断するのは長年の経験があってこそなのだ。
前半は生のネタ中心の6カン。生マグロのトロ、山陰のアジ。地のモフグには一味をふり、車海老はシンプルにプリリとした歯ごたえと甘みを楽しませてくれる。剣先イカ、北海道のウニも流石である。
地元ネタだけでなく、この店のアジは独特の美味しさがある。下ごしらえに3手間も4手間もかけているが「それは誰にも言えんのです」という。身の張りを保ちながら柔らかくうまみ芳醇のネタである。