蔵が建ち並んでいた地、倉敷はアイビースクエアや大原美術館など、美観地区を中心とした観光の街で、一気に旅モードに運んでくれる。そして有り難いことに、「美しい街並み」と「うまいもの」がしっかり両立している街でもある。
『鬼の厨(くりや) しんすけ』は、倉敷駅と美観地区の間のエリアで『割烹 山部』が営む町家の洒落た居酒屋だ。国指定の重要文化財「大橋家住宅」に隣接しているが、「指定時に、店舗が入っていた数軒分が文化財にならなかったんです。だから今、店ができている」と店主・山部晋資さんは言う。
山部さんは家業のスーパーマーケットを継ぐべく東京で修業。生鮮、肉、青果などの現場を体験したことで逆に、「大型スーパーの時代では、家業で対抗するには難しい。他に道を探さないと……」と食材の知識が活かせる料理の世界に入った。
いきなり、ワタリガニの強烈な洗礼
地元客から観光客までがリピーターとなっているこの店では、とにかく岡山の山海の幸を活かした「地のもの」にファンが吸い寄せられる。
まずお薦めしてもらったワタリガニ。当日はまだメスの内子がびっしりと入り、甲羅が盛り上がっているほど。こっくりとした味わいは、ズワイや毛ガニなどでは味わえないもの。
エサが豊富な瀬戸内の海を、後ろ脚のヒレを使って活発に移動しているため、その付け根の身が最も発達している。つまりはツメよりも甘みあり、味濃く、プリリとした肉質を感じる部位。これから夏場にかけてはオスの身がびっしりと詰まってくれるという。
人数に合わせて大きさを合わせてお薦めしてくれる。高級ではあるが、一度は大ぶりのものを食べておきたい名物の一品だ。