『はやうち』は、ビジネス街や住宅街などを中心に関西一円から静岡にも出店している『土山人』で約10年間研鑽を積んだ店主・早内俊二さんの店。旧い町家風に改装した店内は、土壁や旧い梁などが渋い魅力を放ち、落ち着いた空間だ。
「カウンターのある店にしたかった」と話す。料理や蕎麦についての対話がある蕎麦屋を目指してのことであり、全ては食べ手の満足感を満たすためなのだ。
店先で打つ蕎麦は、福井の丸岡や富山、長野、茨城などから玄蕎麦(殻の付いたままの蕎麦の実)を秋に買い付け、真空パックで温度管理し保存しながら使用する。
実際に産地まで足を運び、その出来栄えを確かめて仕入れるというこだわりぶり。また、修業先の『土山人』や京都の『じん六』など、同業者からも丸抜き(玄蕎麦を割らずに丸のまま黒殻を取り除いたもの)の蕎麦を分けてもらうこともあり、時に鹿児島や北海道、東北産の蕎麦粉を用いることもある。
まずは一献、選りすぐりの日本酒と蕎麦前を愉しむ
こだわりは蕎麦のみにあらず。開店当初から一品料理を揃え、今では季節の料理も増え続けている。料理や蕎麦に合う日本酒も常時15種類ほど揃える。銘柄を注文するのではなく基本おまかせ。好みを伝えればそれに見合う酒を提供してくれる。
定番のにしん煮一つとっても、驚くほど手間暇をかけ丁寧に仕込む。半乾燥のニシンを北海道余市から仕入れ、水戻しした後に米ぬかで炊いた後、鍋で煮て味を入れる。そのまま鍋で煮続けるのではなく低温で何度かに分けて味を含ませることでふっくら柔らかく美しく仕上がる。何度も火を入れては休ませて2~3日かけて仕上げるというから驚く。
東京の蕎麦店で食べた味に感動し「これは蒸し煮にしている」と気づいたそう。そのイメージを元に試行錯誤を繰り返しながらたどり着いた定番の品だ。
料理は定番の10種類に加えて計15品を仕込む。中にはフランスシャラン産鴨を使った鴨ロースなどもあり、心ゆくまで蕎麦前が楽しめるとあって、特に夜はゆっくりと過ごす常連も多いという。