「レストランにわざわざ行く価値のある料理を、常に意識しています」
オーナーシェフの白木祐次さんは、ヴェネチアを州都とするヴェネト州のミシュラン星付きレストラン『ドラーダ』で研鑽。イタリアで過ごした経験が、作る料理を自然とイタリア料理にすると語る。
「炊き立てご飯って美味しいじゃないですか。お鮨屋さんでも来店に合わせて炊飯するお店があるでしょう?」とはいえ、なかなかそこまでする店は少ないだろう。予約時刻から逆算してパン生地を捏ねて発酵させ、来店タイミングで焼き立てパンを用意する。それが白木さんの料理人としての誠意だ。
そのほか、アンチョビ、ボッタルガ(カラスミの一種)、塩レモンを始め、手作り出来る調味料はなるべく自家製を用いる。目の届く範囲には全て手間暇をかけたい、その想いが伝わってくる。
ゴージャス感を目指した造りではないが、その分、今回の広島特集の中では、もっとも行きやすい価格設定となっている。
控えめな照明と音楽、席ごとの距離は十分に取られている。単に「食事をする」のでなく、「レストランを嗜む」という感覚。せっかく豊かな土地に旅してきたのだから、ゆっくり楽しもう。
今回は、お任せの7,000円コース(税別)から、メニュー例をいくつか紹介したい。
ユニークなパスタが、訪れるたびに楽しい
瀬戸内海の地蛸をミンチにし、アサリのブロードとトマトソースでラグーに。それをフレスカのタリオリーニに纏わせる。ラティーナの唐辛子の刺激と、添えられたタンポポの春を感じさせる苦みが良いアクセント。
中国地方の特有種であり、広島県の生きる文化財でもある渓流魚ゴギ、まさか味わえるとは思っておらず白木さんの食材ルートに驚愕した。広島県庄原市で繁殖に成功したものを、活きたまま取り寄せたそう。姿焼きにしたゴギの身をむしってホウレン草のラヴィオリに包み、リコッタサラータを削り散らす。初めての食体験にワクワクが止まらない!
噛み締めると川魚の濃厚な香りがムワッ! 誰でも白ワインに走りがちだが、白木さんの提案は、フラッパート(シチリア州産の黒ブドウ)の赤ワイン。なるほど、魚っ喰いのシチリア人は、魚の香りと赤ワインのマリアージュを歴史的に知っているのね。こういう体験をさせてもらえるから、この店に通うのがやめられない。