特集 / 寒いからこそ美味しい、京都の冬グルメ
漱石が、魯山人が愛した、市中の山居

京都, 12月

2017年12月18日

漱石が、魯山人が愛した、市中の山居
中心部から車で20分ほどの距離にもかかわらず、高野川の清流と比叡山を眺められる景勝の地に『山ばな 平八茶屋』は佇んでいる。創業は安土桃山時代。今から440年近くも前に、若狭と京を結ぶ鯖街道沿いの茶屋として産声を上げた。600坪もの広大な庭園を持つが、明治の文豪・夏目漱石が幾度か足を運び、自身の作品「虞美人草」の中で屋号と共に雑感を述べていることでも知られている。
通りに面して建つのは「騎牛門」と呼ばれる、巨木を脚に用い、杉皮葺きの庵を乗せた特殊な門。萩の禅寺の門として400年以上前に造られたが、数奇な運命を経て、昭和27(1952)年に移築された。
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何人も馬を降りないと通れないよう、わざと低く造られている

邸内の池を満たしているのは、井戸から汲み上げる、比叡山系の伏流水。その伏流水は料理にも使われている。「味の根幹であるだしもこの水で引いています」と21代目にあたる園部晋吾さんは話す。 昔から多くの有名人が訪れてきたが、なかでも18代目は美食家として名を馳せた北大路魯山人と懇意にしていた。「厨房を覗くことも良くあったらしく、ある時、私の祖父(19代目)が炊いていたゴリの飴炊きをつまみ、甘すぎると言ったそうです。ところが祖父はこれがうちの味だと言い返した。祖父は私が高校生の頃に亡くなったのですが、よくこの自慢話を聞かされました」。

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21代目の後ろに広がるのが庭。滝や鯉の泳ぐ池がある

旅気分の半日をゆっくりと

離れや小部屋棟、いくつかの建物が並んでいて、その内部には大小様々な座敷が配されている。いずれの部屋からも高野川が眺められるように設計されており、春は桜、秋は紅葉、四季折々の風情が楽しめる。

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一番奥にある、離れの座敷から高野川を望む

昼懐石8,000円(税別)は八寸から始まる。木の芽をあしらった、鯛の小袖寿司。鶏の松風、蓮根せんべい、車海老にイクラ。猪口の中には菊菜と菊花のおひたし。むかごともみじ人参を添え、舌だけでなく目をも楽しませてくれる。

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季節の佳肴を美々しく盛り合わせる八寸

造りは、本マグロと、昆布で軽く締めた瀬戸内の鯛、肉厚のトリ貝の盛り合わせ。『平八茶屋』では代々の当主が修業を積んで包丁を握り、次代に技を授ける“一子相伝”を守っている。その料理を運ぶ仲居さんは風流を感じさせる大原女(おはらめ)姿で。遊山に訪れた漱石の気持ちがよくわかる。

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マグロと鯛、季節の魚を取り合わす造り
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