創業は明治18(1885)年。四条通の北側に広がる八坂新地にて、「お茶屋 近江栄」として歩みを始めた。昭和35(1960)年に、現在の地に移転しお茶屋業を継続していたが、2代目が念願だった料理屋への改業を決心。修業を重ね、京都ではそう多くはない天ぷら専門店に暖簾を掛け替えた。平成3(1991)年のことである。 石の階段を上がると右手は石畳の路地になっており、そこを進むとカウンター席がある。座敷へは、建物ができた当時の雰囲気を今に伝える玄関から上がるようになっている。
あっさり、いくらでも食べられる京風天ぷら
手入れの行き届いた前庭と坪庭が眺められる、床の間付きの座敷。揚げ場を囲むように造られた、掘りコタツ式のカウンターがある部屋。テーブル席が置かれた和室など、大きな邸内には広さも趣向も異なる個室が用意されている。
湯葉や豆腐などを使う先附で始まるお昼の天ぷら会席「祇園」(8,000円〜、税サ別)は、季節の造りの盛り合わせへと続く。以降が、おまかせ天ぷらとなる。 「私どもは“なんば”と呼びますが、とうもろこしの天ぷらがうちの名物なんです」と話す、3代目の遠藤一平さん。季節に合わせて全国津々浦々から生のとうもろこしを入手し、かき揚げではなく、姿で供するスタイルを守り続けている。 もう一つの名物が「えんどう豆のコロッケ」。裏ごしにしたもの、粗みじんにしたもの、2種のえんどう豆をサヤに詰め直して揚げる、手間いりの一品だ。
『圓堂』の天ぷらは驚くほどあっさりしている。その秘密のひとつは、最高級の綿実油を使うこと。もうひとつが衣で、数種の小麦粉をブレンドし、味の濃い地玉子の卵黄だけを使うなど、様々な工夫がされている。こだわりは食材にも。海老は常に活車海老だけを使用。プリッとした肉質、噛むほどににじみ出る甘みが楽しめる。コクのあるミソがたっぷり詰まった頭はカリッと香ばしく、ビールを誘う。
夏は賀茂ナス、冬は九条ネギ、京野菜をふんだんに使うことでも知られる。「京かんざし」の名がついている、金時ニンジンの一種は皮付きのまま、やわらかな葉も共に天ぷらにする。特有の甘み、ジューシーさに驚かされるはず。