左端の壁に掲げられた、楓をモチーフにした看板が目印。京都らしい路地を進むと入口がある。扉の向こうには、和の雰囲気を残した寛げる空間が広がる。ちなみに路地を進むと中ほどには厨房があり、さらにその奥は小さな菜園になっている。オリーブの木が数本、イチジクなども植えられており、ハーブ類はここで採れたフレッシュな物がしばしば使われる。
笑顔が素敵なシェフ夫妻の心地良いもてなしを
オーナーシェフの中本敬介さんは広島県出身。地元と東京のレストランに勤めた後、イタリアに料理留学。卒業後、各州のレストランで腕を磨き、スイスの有名レストランに8年間も在籍。後年は料理長を任される。計12年、ヨーロッパで暮らした後に帰国。京都で自店をオープンさせた。
6,570円のランチコース(税サ込)は、黒米とキノコのクロッカンテで幕を開けた。黒米を炊いて上新粉を加え、薄く伸ばしてから蒸して干して揚げたものに、タプナード(黒オリーブなどで作るペースト)をひと塗り。その上に、マッシュルームやポルチーニ茸のスライスを散らすという、手間をかけたアミューズだ。黒米のクリスピー感、茸の豊かな香りが空腹を増進させる。
続いて登場したのは鯵の前菜。塩もみしてから10日ほど置いて熟成させたキュウリに、自家製ピクルスを加えて仕立てたソースは、甘酸っぱさの中にシャリシャリした食感が混じる。トマトのエキスで作るソルベが淡雪のように口どけ、鯵の風味とのど越しの良さを引き立てる。
スープは目の前で完成させる。カーボロネロと呼ばれる黒キャベツ、クレソンなどが盛り付けられた器を注視すると、合間にはアオリイカの身、すり身にしたイカにイカスミを加えて作るムースが。そこにシェフがスープを注ぎ入れると、イカの豊かな風味がパッと広がる。「トスカーナ地方の名物料理である、リボリータをイメージして作りました」。熱いスープを浴びることで軽く火が入った、野菜やハーブの多彩な歯ごたえが五感を刺激する。