特集 / 豊かな食材とハイレベルな料理が魅力の小倉へ
小倉の寿司文化を担ってきた、街の宝というべき一軒

小倉

2019年8月19日

小倉の寿司文化を担ってきた、街の宝というべき一軒
江戸前のそれとは異なる、独自の形で発展を遂げてきた小倉の寿司。さまざまな海域の魚介が集まり、その品質の高さで知られるこの地の中でも、長年愛されてきた寿司店がこの『寿司 もり田』である。ご主人の森田順夫(のぶお)さんは、昭和10年の生まれというから、現在84歳。現在も板場の前で長男の徹さんと二人並び現役で寿司を握り続けている。

戦後間もない昭和26年、家業を継ぐのが嫌で、縁あって同じ小倉の寿司の名店『天寿し』の先代の下で修業。ただ、当時の寿司ネタと言えばそれほど種類も多くなく、凡そ10種類ほど。仕事としての変化がほとんどなく単調。さらに当時の小倉は日本を代表する大都市で、出前をすることが多かったので、一日中仕事に追われまくって、何度も仕事をやめようと考えたこともあったのだという。

天草産の岩牡蠣。北陸などに比べると小ぶりで握りにも使いやすいサイズ。岩牡蠣にありがちなミルキー過ぎるものではなく、旨みや歯ごたえがいい。生でもいいが、軽く炙ることにより、より芳ばしい仕上がりとなる。ポン酢ともみじおろしでさっぱりと
天草産の岩牡蠣。北陸などに比べると小ぶりで握りにも使いやすいサイズ。岩牡蠣にありがちなミルキー過ぎるものではなく、旨みや歯ごたえがいい。生でもいいが、軽く炙ることにより、より芳ばしい仕上がりとなる。ポン酢ともみじおろしでさっぱりと

そんなある日、ふぐの刺身の残りを握りにしたところ美味しくて、これを寿司として出せないかと考えたのが、現在のような創作の原点となった。今から65年も前のことである。寿司にするには硬いふぐの身の薄造りを2枚重ねたが、それでは握ると重ねた身がズレてしまう。試行錯誤を重ね、寿司ネタとして成立するやわらかさとふぐの旨みが感じられる、ちょうどいい厚みに開く現在の形となった。そして寿司飯と身の間には小ネギともみじおろしを、仕上げに柑橘の酢を塗って、醤油をつけていただくという、それまでにない寿司が出来た。

創作寿司の原点と言える、65年間握り続けてきた逸品。薄く開いた、ヒガンフグで小ねぎやもみじおろしを挟んである。邪道といわれたこの寿司も今や小倉の王道
創作寿司の原点と言える、65年間握り続けてきた逸品。薄く開いた、ヒガンフグで小ねぎやもみじおろしを挟んである。邪道といわれたこの寿司も今や小倉の王道
剣先イカは、包丁目を入れて、軽く火にかざし、波のような動きのある見た目に。「荒磯」と名付けたこの寿司は葛飾北斎の絵からヒント得たのだという。上に乗ったトビウオの子とウニによって香りや食感、そして旨みが増す
剣先イカは、包丁目を入れて、軽く火にかざし、波のような動きのある見た目に。「荒磯」と名付けたこの寿司は葛飾北斎の絵からヒント得たのだという。上に乗ったトビウオの子とウニによって香りや食感、そして旨みが増す

ただ、当時は明治・大正生まれの頑固な常連が多く、「これは寿司ではない」と否定されることもあった。それでも、大将が美味しさを認めてくれたこともあり、自分より年下になら出しても受け入れられると考え、当時の若者に対して新しいスタイルの握りを出すようになった。醤油とショウガをベースにした薬味を乗せたカツオや北斎の絵からヒントを得たというイカの握り、皮目だけを炙って梅肉を乗せた鱧など、季節や素材に応じて様々な創作寿司を生んだ。それが当時の若い世代に評判を呼び、現在のような創作寿司が広まるようになったというから面白い。

カツオはタタキを食べるように、細かく刻んだネギ、ショウガ、青じそ、ミョウガを醤油で味付けしたタレを乗せて
カツオはタタキを食べるように、細かく刻んだネギ、ショウガ、青じそ、ミョウガを醤油で味付けしたタレを乗せて
小倉の藍島(あいのしま)のムラサキウニ。小倉から船で30分ほどの地にある島で、今年は8月2日に出てきたばかりで、漁の収量は毎年10月10日まで。旨みはあるが、比較的余韻が短い、あっさりとした味が特徴。その後のウニは2月頃までは北海道・厚岸から取り寄せる
小倉の藍島(あいのしま)のムラサキウニ。小倉から船で30分ほどの地にある島で、今年は8月2日に出てきたばかりで、漁の収量は毎年10月10日まで。旨みはあるが、比較的余韻が短い、あっさりとした味が特徴。その後のウニは2月頃までは北海道・厚岸から取り寄せる
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