もちろん、ただカタチだけがヌーベルシノワというわけではない。ご主人の小川林太郎さんは、日本での修業もほとんどなく、言葉もわからないまま、中国へ渡り中国料理の基礎を叩き込んだ人物。広東省広州市のホテルで修業されていた正統派の中国料理人である。そして、今から約30年前、修業先からも近い香港ではやりはじめたのがヌーベルシノワだった。そして、帰国し自らの店を開くにあたって取り入れたのがこのスタイル。
日本で作る中国料理と中国の中国料理。その違いは衛生面だという。日本に比べ衛生面での管理が行き届いていない環境が少なくないため、大量の油と強い火力で料理を作る必要がある。けれど日本ではその必要がないため、中国と同じものを作る必要はないと、小川シェフは考えた。もともと、「医食同源」という思想がある中国料理の基本の基本・本質に立ち返ったのだという。季節の食材を使って、季節の料理を食べる。その時に大量の油は使いたくないし、それゆえ濃い味付けにする必要もない。小川シェフの中国での修業時代は冷蔵技術もあまり発達していなかったため、手に入るのは季節の食材だけ。それゆえ、料理も季節ごとに変わっていた。つまり、日本料理と相通じるところがあるのが、中国料理の本質なのだろう。
小川シェフが使う食材は、それゆえ季節のものであふれている。例えば野菜は、基本的に有機、無農薬で健全な環境下で育まれたもの。全国の料理人から知られる梶谷農園などから仕入れる中国野菜だ。魚は地元には固執しないが天然ものを使う。ハウスものは使わない。また、あまり油を使わない代わりに用いられるのが、宮崎の地鶏・みやざき地頭鶏(じとっこ)のガラでとったスープ。火力も一般的な中国料理のそれほど強く調理しないため、素材の持つ食感、味がダイレクトに反映された、優しい味わいの料理が表れる。