神戸の元町で美味しい中華…といえば真っ先にあがる名店中の名店。古くから陳舜臣や小津安二郎など巨匠たちが足繁く通い、数々の大物セレブリティ、文化人たちによって愛されてきた数多くのレジェンドを持つお店。そういえば、いつかお昼時、焼きそばなどを食べているすぐ横で、建築家の安藤忠雄氏がさらっと五目焼きそばを召し上がっていたこともありました。
毎日ワンタンだけを食べに来る人。かと思うと月何百万と使う人まで多種多様。週末のお昼どきはたいてい長い行列ができています。そのお客さんたちも、何十年も親子3代で通い続けている人から観光客、ひとりご飯の人、80歳をとうに過ぎたご夫妻まで千差万別。
メニューも焼き飯、レタス包み、シュウマイといったごく普通のものから(味は別格ですよ)、燕の巣といった最高級食材を使った垂涎の裏メニューまで、そのレンジの広さと技術の高さは日本屈指。
美味三代のファミリーヒストリー
創業者は広東料理の巨匠と言われた、王熾炳(おう・しきへい)氏。20歳のときに中国本土から神戸に渡り、昭和29(1954)年、元町にこのお店を開きました。NHKの料理番組にも出演された元祖・鉄人的な料理人で、神戸三都物語のイメージポスターにも登場。日本を代表する中国料理の雄なのです。
日本にはなかった野菜を中国から苗を取り寄せ育てたり、料理への妥協は一切せずに自らの世界を築き上げた偉人は、油の染みが一滴でも厨房についていると一日機嫌が悪かったそう。そんな先代の意思をついで、いまも厨房はぴっかぴかに磨き上げられています。
二代目の泰康さんも素晴らしい料理人。3歳の頃から厨房を遊び場として育った王さんは父の意思を受け継ぎ、新しい料理を作るより古い料理を掘り起こしていまに残したいと言われます。 その料理哲学は「毎日当たり前のことをコツコツとやるだけ。その繰り返しで丸みと渋みが出てくるんやね」とさりげないのですが、その料理の腕、知識、人間力で、フレンチ、イタリアン、そして日本料理の一流料理人たちからも一目置かれる存在です。
そして、現在は三代目となる文良さんがそのあとをまた継いで立派な料理人として日々厨房に立たれています。